【前回の記事を読む】帝釈天の活躍で三邪神は撃退された。しかし、奪われた三種の神器は見つからず……

第一章 天界で奪われた三種の神器

「強硬派の神々が、三次元世界を破壊せよと……」そういったきり、帝釈天は黙りこくった。三人の間に沈黙の帳が下りた。三種の神器を紛失する原因をつくった帝釈天は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

「帝釈天よ、何もおぬしひとりで片をつけろとは思っておらぬ。穏健派の皆で力を合わせて何かできぬものかのう」

沙伽羅龍王の言葉に、弁財天は我こそ力を貸さねばならぬと肝に銘じた。道中に三種の神器を奪われそうになったのは弁財天と十五童子であり、そもそもの原因をつくってしまったという後ろめたさがあった。

「地上の人々に罪はない。彼ら彼女らを消滅させるのは避けたいのう」

帝釈天はそういって腕を組み、まぶたを閉じた。何やら思案しているようであった。

「よし決めたぞ」

帝釈天はかっと目を見開いた。

「人間と合心(がっしん)して地上に降り立ち、三邪神を封じ込め、これから人々の間に膾炙(かいしゃ)するであろう邪を滅することとしよう」

合心とは、天部に住む神が地上に暮らす人間の御魂に入り込み、心をひとつにする神業である。天部の世界の掟により、人間と合心できる神は一体と定められている。

「しかし、それでは強硬派の神々の意向に背くことになるぞ。神々への裏切りは重い罪になる」

沙伽羅龍王はうろたえた。弁財天は何も申さず、ふたりの話し合いを見つめていた。

「致し方なかろう。我の慈悲の心に背くわけにはいかぬ」帝釈天は決心を固めているようであった。

「合心する人間の目処は立っておるのか」沙伽羅龍王が聞いた。

「倭の国に空海という僧がおる。こやつはなかなかに見込みがあるのだ」帝釈天は自信たっぷりに答えた。