弁財天が声を張ると、閉じられた襖(ふすま)の向こう側で小さなどよめきが起こった。

「そろそろ顔を見せてはどうじゃ」

弁財天が言葉を継ぐと、静かに襖が開いた。牛馬が三つ指をついている。その後ろには、十五童子が控えていた。

「話は聞こえていたか」弁財天は牛馬に尋ねた。

「はい」

「して、そなたらはどうするのじゃ」

「是が非でも弁財天さまについていきたく存じます」

「全員か」

「全員が同じ思いです。我らも転生し、弁財天さまに尽くします」

「それはならん」沙伽羅龍王が声を荒げた。「十五童子全員が天部から失せたら、さすがにほかの神々も気づくであろう。そこまで嘘はつき通せぬ」

牛馬以下、十五童子は黙りこくった。沙伽羅龍王の言葉に逆らうことはできなかった。全員の顔には、あからさまに悔しさがにじんでいた。

「沙伽羅龍王よ、どうにかできぬか」弁財天が懇願した。

「我からも頼もう。どうか十五童子の願いを聞いてはくれぬか」帝釈天が頭を下げた。

「しかし、十五人の童子が天部から消えてしまえば、誰かが気づく。みすみすぬしらの命を危険に晒すようなものじゃ」

沙伽羅龍王はほとほと困り果てた。

「そこをどうにか頼む」弁財天は頭を下げた。

「これ、頭を上げい」沙伽羅龍王が焦りを見せた。

「それでは、これでどうじゃ。十五童子全員でついていくのが難しいのであれば、数人のみにその資格を与えるのじゃ」

帝釈天の案に、沙伽羅龍王はため息をついた。十五童子はひざまずき顔を伏せたままである。

 

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