「私もついていこう」
弁財天が切り出すと、沙伽羅龍王に加え、帝釈天も目を見開いた。
「弁財天よ、まさか責任を感じているわけではあるまいな。ここは我に任せておけばよいのだ」
「我が三邪神に襲われなければ、このような事態を招くこともなかったろう。おぬしに責任を押しつけるわけにはいかぬ」
「しかし、合心できる神は一体のみという掟がある。帝釈天が空海と名乗る僧と合心するのであれば、おぬしはどのようにして地上に降りるのじゃ」沙伽羅龍王が疑問を呈した。
「転生するしかなかろう」弁財天はきっぱりと口にした。
「転生か」沙伽羅龍王は眉間に深いしわを寄せた。
転生とは、神が自らの心身を滅し、人間として生まれ変わることである。転生して人間になると、神としての能力は半減する。自らの意思で天部に帰ることは叶わず、転生した人間の命が尽きた瞬間に神の姿に戻る。
「我は人間に転生し、そなたの合心する空海とやらを必ず見つけよう。力を合わせて三邪神を封じ込め、三種の神器を取り戻そうではないか」
「ぬしらの心意気は買おう。しかし、剣呑(けんのん)じゃ」沙伽羅龍王の顔つきはほとほと弱り果てている。
「沙伽羅龍王よ、ぬしは我と弁財天の話を聞かなかったことにせい」
帝釈天の言葉に、弁財天も首を縦に振った。沙伽羅龍王の立場を危うくするのは本意ではなかった。
「そうするしかあるまい。何も聞かなかったことにしよう」沙伽羅龍王が頭を下げた。
「おぬしらに火中の栗を拾わせるようで相すまぬ」
「何、儂が蒔いた種だ。この手で刈り取るしかあるまい」帝釈天は目を細めた。
「ところで、そなたらはどうするのじゃ」