【前回の記事を読む】3邪神を相手に奮闘する童氏たち。敵はあまりにも強大で、邪神の吐いた唾液が足を捉えた。もう逃げられない......

第一章 天界で奪われた三種の神器

「十五童子よ。弁財天を守るための活躍、しかと見届けたぞ。もう安心しろ」

帝釈天は蜚流布に唾をかけられた三人の童子に近づき、深緑色の唾に向けて右手に持った金剛杵(こんごうしょ)をかざした。金剛杵からは黄金色の光が発せられ、みるみるうちに唾が溶けていった。

「動ける、動けるぞ」

「帝釈天さま、ありがとうございます」

三人の童子たちが口々に声を上げる。

「帝釈天さま、じつは物の怪に三種の神器を……」

「話はあとじゃ。はよう皆のもとへ戻れ」

「御意」

三人の童子は駆け足で弁財天のもとに戻ってきた。

「さて、物の怪をこらしめてやるか」

帝釈天は深々と息を吸い込み、合掌して静かに目をつむった。その間に、三邪神は帝釈天に近づいてくる。その距離、わずか三間 (さんげん)ほどに迫ったところで、帝釈天はかっと目を見開き、右手に持った金剛杵を近づいてくる三邪神に向けた。

その金剛杵に、みるみるうちに黄金色の光が集まってくる。先だって蜚流布の唾を溶かした光よりも明るく、輝きが増している。その光は徐々に渦を巻き始め、その渦は大きくなっていった。

「皆の者、吹き飛ばされぬよう気をつけろ」

帝釈天の声に、離れた場所にいる弁財天たちは、それぞれ身を屈めて備えた。牛馬は仁を乗せた牛車が飛ばされぬよう、固く軛を握りしめて身構えている。

その瞬間、帝釈天の右手に持った金剛杵から強烈な黄金色の光が放たれた。その光は三つの方向に分かれ、猛烈な勢いで三邪神に衝撃を与えた。三邪神は各々が衝撃に耐えようと重心を低くしたが、光の勢いはますます強くなっていく。

「これで仕舞いじゃ」

帝釈天はそういうと、右手に持った金剛杵をさらに強く前へ押し出した。まさに神業であった。

衝撃に耐えかねた三邪神は、断末魔の叫びを上げながら上空に飛ばされ、光に押し出されるように夜空の彼方へと消えていった。 弁財天は十五童子とともに帝釈天に駆け寄った。

「帝釈天よ、無事か」弁財天がいった。

「無事も何も、傷ひとつ負っておらぬ」帝釈天が微笑を浮かべた。「我の力があれば、ほかの次元まで吹き飛んでいるはずじゃ」

その後方で、十五童子たちが青ざめた顔をしている。

「皆よ、浮かぬ顔をしてどうしたのじゃ」弁財天が尋ねた。 十五童子はそれぞれ顔を見合わせ、意を決した酒泉が口火を切った。

「先ほど話しそびれたのですが、じつは三邪神の一体である瘧壓(ギャオス)が三種の神器を口に咥えておりまして」

「誠か」帝釈天は目を丸くした。「金剛杵から放つ光がまばゆくて、やつらの顔がようよう見えなかったのだが、ずっと口に咥えておったのか」

「左様でございます。ですから、三種の神器まで飛ばされてしまった可能性があります」