「なんと」帝釈天は絶句した。
「皆が命を落とすかどうかの瀬戸際だったのじゃ。帝釈天に非はあるまい。それより、吹き飛ばされた物の怪が三種の神器を落としたかもしれぬ。皆で手分けして探すのじゃ」弁財天がいった。
「十五童子よ、誠にすまぬことをした。我は一足先に弁財天と神々の里へ戻ることにする。どうか三種の神器を探し当ててくれまいか」帝釈天は表情を曇らせた。
「御意にございます」酒泉童子がいった。「命を救っていただいた身として、恩返しをするのは当然の道理です」
「かたじけない」
帝釈天は、十五童子に向かい深謝した。位の高い神であるにもかかわらず、この実直さが魅力でもあった。
十五童子が神々の里に戻ってきたのは、十日後であった。それぞれの浮かぬ顔つきを見れば、三種の神器を見つけられなかったことは一目瞭然であった。
「誠に申し訳ございません。我ら十五童子、草の根を分けて三種の神器を探しましたが、手がかりすら見つけることはできませんでした」詫びを入れたのは牛馬であった。
「左様か」帝釈天は一瞬、沈鬱な表情を浮かべた。しかし、すぐに笑顔を見せていった。「何、すべては我の責任じゃ。ぬしらは気に留めるな。さて、これからほかの神に伝えることにしようか」
三種の神器を探し当てられなかったことは由々しき問題となり、選ばれし神々が集う評議の場が設けられた。
場は紛糾した。過半を占める強硬派からは、三邪神もろともほかの次元の世界に飛ばされたのではないかという声が上がった。それなら一層のこと、人間の住む地上の世界を消滅させ、一から世界を創造するべしという意見が出た。
穏健派は破壊と創造に費やす労力が膨大なものになることを予測し、どうにかして強硬派の意見を封殺したかった。だが、その方策は皆目見当がつかなかった。
穏健派の顔役であり、八大龍王のひとりである沙伽羅龍王は困り果て、事の原因である帝釈天と弁財天に相談を持ちかけた。強硬派の意思を伝えると、帝釈天は顔を蒼白にした。弁財天が驚くほど真っ青であった。
【イチオシ記事】お互いパートナーがいたけれど出会ってビビッと来ちゃった2人。そして妊娠発覚!