「さよう。それがしの望みは……」

カイは己の半生を噛みしめながら、ゆっくりと面を上げた。

「革命!」

握り締めた破片は手裏剣となって、その手を離れた。鋭利な武器が大御所・徳川家斉の喉仏を貫く。家斉の意識は途絶え、ことの推移が理解できないままその場に崩れ落ちた。一同が呆然とする中、カイは別の破片を拾い上げ目を丸くする忠邦の背後を襲った。

「てめえら! 道を開けろ」

喉元には鋭利な破片が突き付けられている。完全に機先を制され、帯刀もしていない家臣たちはなす術もなく後退りする。自然と道が開けた。

(ああ、邪魔くせえな)

長袴のことだ。カイは自分の袴を脱ぎ捨て、忠邦の羽織と袴も剥ぎ取った。

「おい。なんとか老中。走ってもらうぞ」

忠邦の後ろ襟を掴んで、大広間から飛び出した。

「で、出合え。出合え。不埒者じゃ。誰ぞ!」

兄というより自分の後ろ盾をかっさらわれた跡部は、喉が潰れんばかりに叫んだ。この跡部良弼のその後だが、大塩の乱については一切責任を問われることなく大目付から勘定奉行へ昇進。忠邦が失脚した後も幕政に残り最終的には若年寄となって隠居。七十歳まで生きた。

これほど無能な男がなぜ?と訝るなかれ。我々も近年、総理大臣をかばって鼻白むような偽証を繰り返した官僚と政治家が出世していくのを見てきたではないか。