(こいつらが例の兄弟だな)

カイは横目で跡部と忠邦を盗み見、位置を確認した。

「甕をこれへ」

老中首座の忠邦がこの場の仕切りなのだろう。声を低めて言った。家臣たちが至宝のように甕を押し戴いて中段の間の中央に据えた。

「大目付・跡部山城守。しかと検分致すがよい」

大塩の乱のきっかけを作るという大失態を犯したにも関わらず、このとき既に跡部は大坂町奉行から栄転し大目付の役にあった。忠邦は実の弟に事務的に命じる。

「は。それがし、目を皿にして鑑定し申し上げまする」

「じゃあ、オイラが甕の中を……」 

カイが甕に歩み寄ろうとすると忠邦がまた慌てた。

「待て! お主は触るな」

忠邦が家臣たちに扇子で指示を送る。やはり警戒されているのだ。無理もない。二十歳に満たぬこの馬の骨が甕の中に不審な物、例えばリボルバー拳銃などを隠していない保証はないのだから。指示を受けた家臣のひとりが、甕に手を突っ込み中の物を引き上げようとした。だが、口のところでその物体がひっかかって取り出せない。

「何をしておる」

「それが…」

「畏れながら。薬に漬けておりましたゆえ、ふやけておるのかも知れませぬ」

カイが注釈を入れる。だからオイラにやらせろって言うんだよ。御簾の向こうから笑い声が上がった。

「ははは。大塩平八郎は、死してなお跡部の顔なぞ見たくもない、と申しておるわ」

跡部の顔が赤らんだ。三年前のトラウマが沸きあがってきたようだ。そうだ。私は大塩平八郎に赤っ恥をかかされたのだ。

「誰か道具を持って参れ。甕を割れ」

やむなく忠邦が家臣に命じ、槌とたらいが運ばれてきた。たらいの中に甕が据えられ、槌を構えた家臣が御簾に対し「ご無礼をば」と断りを入れる。