客観的原因が判明すれば、肝心の症状が変わらなくても満足という“超・客観主義”の患者さんもいます。「長年痛みが続いていたが、原因がわからなくて心配だった。調べてもらったら原因がわかった。よかった!」と安心する(?)方も、まれならずおられます。
そのような方々は痛みで悩んでいたのではなく、痛みを起こす病気の正体が不明であることの「不安」で悩んでいたのかもしれません。しかし、これもまた臨床医学の意義であり、ひとつの治療といえるでしょう。
客観主義の医者は、痛みの原因となる器質的異常が見つからないと「不定愁訴」などと結論して、それ以上の診察を続けることに消極的になりがちです。専門医はしばしば「いろいろ調べてみましたが異常は見つかりませんでした。だからもうお帰りいただいてけっこうです」と“失言”してしまいます。
1 主観的身体のことを専門的には「身体図式(body schema)」という(1)。
2 一般の人が体の各部を示す用語は理科や解剖学で習ったものではない。医者が用いる解剖学用語は専門家が人為的に決めたものであり、一般人の用語と違うのは当然である。
3 英語でも一般用語と解剖学用語は異なる。ヨーロッパ語では解剖学用語はラテン語で統一されている。明治時代にラテン語解剖学用語は和製漢字語に翻訳された。
しかし英語で書かれた現在の多くの医学論文ではラテン語と英語が混在する状況になっている。特に脳神経系では混在が著しい。欧米でもわが国でも一般の方々は解剖学用語を知らないし、医者から言われても通じないことが多い。
一般英語では腹はstomachだが、解剖学用語ではabdomenである。骨は一般英語でboneだが、解剖学用語ではosである。
4 最近、私はシビレの新たな定義を論文で提案した(2)。
【参考文献】
(1)サンドラ・ブレイクスリー マシュー・ブレイクスリー、小松淳子 訳『脳の中の身体地図 ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ』インターシフト、2009年
(2)高橋弦『しびれ考 考察に基づく新たな語義の提案』整形外科、70:351-358,2019
(3)養老孟司 南伸坊『解剖学個人授業』新潮社、1998年
次回更新は8月8日(金)、8時の予定です。