「意外すぎるでしょ? あいつはね、ほんっとに優しいやつなんだよ。担任の先生は、外面はいいけど全く助けてくれなかったしさ。親にも言えなかったから、味方で側にいてくれたのは颯斗だけだったんだ。って、え? あかりちゃん泣いてるの?」

頭の中で、"担任の先生"の姿が一気に浮かび上がる。助けてくれなかった。逆に苦しめられた。あの頃の、私の記憶が和也くんの記憶と重なる。思い出したくない。嫌だ。

俯き顔を逸らして隠していたけれど、気づかれた焦りもあって急転する感情が体内を巡り、体が小刻みに震えた。戸惑い揺れる和也くんの視線が、余計に強く私の心を縛る。震えが強くなる。本当に情けない。

「と、とりあえず近くに公園があるから、ベンチに座って休もう!」

「うん……。ごめんね」

見栄を張るいつもの余裕も消えて、私は支えられながら公園へ向かい、ベンチに座った。和也くんが飲み物を買いに行っている間、呼吸を整えながら足元に咲く花弁の欠けた春紫苑を見た。自分が哀れに思えて、笑ってしまった。

「大丈夫? はい、ココア。ごめんね、水が売り切れてて、甘いものの方が落ち着くかなって思って」

せっかく親切にしてもらっているのに、その感謝より和也くんが今の私をどう思っているのか、その答えの追求が思考の中で先立つ。否定的な答えばかりが心中で駆け巡る。

「ありがとう、だいぶ落ち着いた。本当にごめんね。ちょっと今朝から体調が良くなくて」「全然いいよ! 気にしないで。むしろそんな体調で園芸委員の仕事やって、そりゃあ悪化もするよ。すぐ気づけなくて申し訳ない」

「ううん。ちゃんと自己管理してなかった私のせい。ごめんね」

和也くんは「気にしないで」と、優しく微笑みかけてくれた。それが私の心を余計に不安にさせる。気を遣って精一杯の笑顔を私に向けられると、猜疑心に満ちた思考の流れを止められない。

努めて明るく振る舞いながら、しばらく先ほどの話の続きをした後、私たちはそれぞれの帰路に着いた。颯斗くんが誰よりも優しいことは、和也くんに負けないくらい、私もよくわかっている。

あまりよくない気がするけれど、ケースから抗不安薬を取り出して、残りのココアでグッと飲んだ。春めく季節とは対照的な自分の姿を、また哀れと思って微笑した。