だがあさみは、他人の不幸を幸いに陰でほくそ笑む悪者にはなれなかった。それで、越前に対する自分の思いを少女に打ち明けた。
「えええーっ!」少女が仰天して驚く様子を、ああ、娘はこうして大人になっていくのだ、世の中のことを一つ一つ驚きながら、皺を増やして自分の中に受け入れていくのだ、とぼんやり眺めた。
「越前さんのことが、あたし、ほんとに好きだったのよね。……だから、あなたがあの手紙を見せてくれたときには、心の中がひっくり返っていたの。でも、悪がらなくていいのよ。あなたは知らなかったんだし、それにもう済んだことだから」
少女はあんぐり口を開けていた。やがて胸いっぱいに息を吸い込み、フワーッと吐き出して言った。
「なーんだぁ。そうだったのぉ」
彼女はやけに晴れ晴れとした顔つきになった。
「それならそうと早く言ってくれればよかったのにぃ。越前さんが好きだ、って。そうしたらあたし、あんなに悩まなかったのに。なーんだぁ。そうだったのぉ」
あさみにはわけがわからなかった。
「どうしてそんなふうに言うの? 何が『なーんだ』なの?」
そう聞かれても、何が『なーんだ』なのか、少女にも説明できなかった。自分の心理を分析して表現する習慣など持っていなかったからだ。
その後の少女の行動から、あさみが判断して勝手に推測するよりほかなかった。つまり、こうではなかっただろうか。少女は初めて〝自分に恋する男性〟に出会った。初めて出会ったものには恐怖感を抱く。