会話を巧みにこなし、眼差し一つで女心を動かす術を知っている。山川が庶民的、浪花節的なら、越前は洗練されたジョークを操る紳士の風格を漂わせていると言ってもいい。

山川に艶種(つやだね)は一つもなかったが、越前にはいくらでもあった。山川はあさみより一つ下、越前は三つ上だ。

趣味のサークルには、あらゆる年齢層からさまざまな職業の者達が集まってくる。高校を卒業したばかりの、外見も気持ちもまだほんの少女という女の子が、その春入会してきた。

易しいステップさえまだ知らないというのに、いきなり越前が(自分のリード力に自信があるのだろう)その場のパートナーとして女の子を中央へ引っ張り出した。

ダンス歴が10年になり、別の地区に自分のサークルまで持つという越前は、各地の講習会に参加して仕入れる新しい(W先生も知らない)振り付けを月に一、二度こちらでワークショップしてくれる。

特定のパートナーを持たない彼は、女性の足型(ダンスステップ)の説明に、いつもその場で行き当たりばったりに相手を選ぶ。女性のほうが男性よりずっと数が多いため、かっこいい越前がちょっと手を差し出せば、みな我先に中央へ進み出る。

何が何だかわからずキョトンとする18歳の(だがとても幼くて、14歳以上には見えない)少女の手を引っ張って、越前が円の中央へ連れ出した。

次回更新は8月4日(月)、22時の予定です。

 

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