恋心は小心者のあさみに皆の前でそんなことを言わせた。電流がこちらの体を突き抜くような、越前のあの百を語る眼差しにもひるむことなく、恋風はあさみの声まで甘え声にさせた。
というのも、前の週の例会でたまたま一緒に組んで踊ったときに、耳元で「好きだよ」とささやかれたのだから。
越前が帰ってしまうと、あさみはすっかりつまらなくなり、山川が場を盛り上げようと人一倍騒ぐのを、にぎやかな人だこと、などと冷ややかに眺めながら、お開きになるまでぼんやり過ごしたものだった。
越前大吾。理緒子に紹介しても、ちっとも恥ずかしくない男。もし越前が初対面の女性に後ろからコーヒーをかけられたら――そう、彼だったら理緒子の目を、女の衣服を透き通して見る目つきでひしと見つめ、『やってくれましたね』とか『冗談がお好きなんですね』とか、言ってのけただろう。
それに反応して理緒子はパッと顔を輝かせ、『石にけつまずいちゃって』とかなんとか、ワックス塗りのホールの床に立ちながら答えてみせただろう。それとも『すてきな背中を黙って見過ごしたりなんかできなかった』と白状しただろうか。
背中の広さで言えば、越前よりも山川のほうがたくましくて立派だ。高校で体操クラブに入っていたので、背丈こそ足りないものの、山川の体は見事な逆三角形になっている。
体操をやめて十年たった今でも、腕は筋肉で盛り上がり、お尻はキュッと引き締まって形がいい。胸板も分厚く、顔が細いのと着痩せするせいで見逃してしまうが、山川は健康器具の広告写真に写っている男優くらいの体をしているのだ。
そこへいくと越前は、山川より背こそ高いのだが、そろそろ脂肪が付き始めたかな、という体つきで、お尻もふっくらしている。
肌が白く、女のように手がきれいだ。ところが気質は体格と正反対。山川がうぶで気弱で、おしゃべりで無骨なのに対し、越前は押しが強く、かつ都会のスマートさを持っている。