二年生の夏休み明け、カリフォルニアに一ヶ月帰省していたナオミが熊本に戻り、久しぶりに典子とのおしゃべりに花を咲かせた。二年生からクラスは別になったが相変わらず一緒に図書館で勉強したり、ファストフード店でだべったり、最近はカラオケに行くこともある。ナオミの繰り出すカリフォルニアの土産話を聞いていた典子が呟いた。
「よかねぇ、うちも行ってみよごたるね。アメリカってほんなこつ自由で住みやすか素敵な国やちゅう感じがするなあ」
「わあ、久しぶりに聞くと、やっぱり熊本弁いいな」
「じゃ、今日も熊本弁ば鍛えちゃろうかな」
「でもね、アメリカに帰るとやっぱり私、どっちなんだろって思うことがある」
「どっちってなんが?」
ナオミは、学校ではオリエンタルとして見られる一方で、ロサンゼルス中心部にあるリトルトーキョーの日系人祭りなどでは、日本語が不得意で、考え方がすっかりアメリカナイズされた人間として扱われた経験を話して聞かせた。
「うちにはよう分からんな。最近じゃ日本も外国から移住する人が増えとるばってん、アメリカんごつ多くはなかけんね。こん高校で外国人はナオミだけと違う? あとはみんな日本人やし」
「そこなのよ。ね、初めて会った時のこと憶えてる? 教室の後ろにボーッと突っ立ってた私に、どうかしたとって聞いてくれたじゃない」
「ああ、あん時ね。制服にびっくりしたんやって言いよったね」
「それも少しはあるけど、本当はみんなが同じ黄色い肌、黒い髪をしていることに驚いたんだ。初めて見る光景だった」
「あたりまえだけどねえ。それに肌ン色は白か子もおりゃ黒か子もおるばってんなあ」
「そりゃ色白の私みたいな子や、健康的に日焼けした典子みたいな子もいるよ」
「こらこら、はっきり言いなすな」
典子が怒ったふりをしてみせたあと、ナオミは夏休みに得た新知識を披露した。