果ては「いろはさん、もてますねえ」なんてだいぶ年下の職員にまで言われるようになってしまったから、こっちとしては身の置き所がない。
なにせ、私はもう46歳で初老を6年過ぎているんだし、拓也さんときたら51歳なんだから、恥ずかしいったらない。
返答としては、「年の開きがいい具合だから話しやすいんでしょ」というのが良いようだった。そうすると憶測する人たちは「ああ、そうか」と納得するらしかった。
部屋が綺麗に片付くと、「見てくれ、これが俺とあなたの愛の巣だ」と言って招き入れてくれた。
シングルベッドでは動きがとりにくいですね、と思いながらも、見違えるように綺麗に片付いていたので、
「すっきりしましたねえ、良かったです。みんな拓也さんのお掃除で頑張ったんですよ、愛されてますよね」と生活支援員のお手本のような返事をした。
でも拓也さんの顔は「なんだ、そんな感じなのかよ」とでも言いたそうなつまらなそうな顔だった。満足しないんだ、部屋が綺麗になったのにな。そう思いながら淡々と業務をした。
私には夫がいるが、あまり記念日とかイベントとかには重きを置かない。17歳の娘も大きくなったので、誕生日やクリスマスにささやかに家族でちょっとしたご馳走を食べたり、贈り物を渡したりするだけだ。
記念日というのを大事にする人も世の中にはいる。入籍を控えた若い男性職員が「彼女の誕生日に入籍するんすよ、忘れないように。それがバレンタインなんすよねえ、忘れられねえっすよねえ」と、
おお、これ「デレる」の極みだなという顔をして話していたのを聞いたので、そういう人もいるのだな、それっていいことだなと46歳のあんまり記念日を大切にしない女は反省した。