【前回記事を読む】“もと反社”と言うけれど、実は手先が器用で、繊細な切り絵を作る人だった。私は知っている、彼に惹かれてきた人たちがいることも…
正解です
休みの日が終わるとまたグループホームの当番だったので、仕方なしに出掛けた。その日は業務量が少なかったが少し気鬱だった。
2人きりになると「あなたを抱きしめてキスしたい」と来た。ならば、と思い、私は両手を広げて「さあ、来い」と言ったら、すうっと優しく抱きしめられた。彼は「柔らかいな」とだけ言った。
そのあと「これからもたびたび頼みます」と言われたけど、「ダメ、一度きり。それ以上のことがしたければ、私を夫から奪えるくらいいい男になりなさい、そしたらその頃にはもっと若くて可愛い女の子が抱けるから」と言った。
「俺に火をつけたな」と笑っていた。
先輩に「どうだ、やってやったぜ」と言ったら「あの人誰にでもそういうこと言うんだよ」とちょっと笑われたので、少し癪に障ったが、朴訥な先輩には分からない男女の機微があったのだよと心の中で言い返した。
週が明けてまた、グループホームへ行くと「動揺させること聞いて悪いけどさ、あんときどこまで俺致してよかったんだよ、あれでよかったのか」と彼が尋ねてきた。
私は両手を握りしめて、そうです、それが正解です、これって信頼関係ですと答えた。
「俺は本能を理性で御したんだな、あれで大丈夫だったのか」と言って彼は笑っていた。
そうです、そうです、大正解です、と真っ赤になって私も笑った。良かった、あなたが私を大切に想っていてくれて。私もそうなんだよ。とても嬉しい。