【前回記事を読む】「障害部門はわがまま」と言う同業者は少なくはない。施設の職員が好むのは「もの分かりがいい」利用者だ。管理しやすいから。
正解です
気に入った女性の職員に連絡先を尋ねることがあるらしい。私は連絡先を聞かれないが、だいぶ際どいことを言われる。セクハラです、と言って差支えないだろうと思う。
随分卑猥なことをいうようになった、と最近感じていた。ある日、グループホームで彼と二人きりになった。
私がその人の部屋の掃除をしていたら、俄かに部屋の戸が開き、がたがたと手を震わせながら、「襲うぞ」と何度も言ってきた。なにも言わずにじっと彼を見ているとそのうち出ていった。だいぶ怖かった。
寒い冬の日のことだった。曇天模様の空、私の住む地方ではさらりとした雪ではなく、水分を多く含んだ重たい雪が降る。
暖冬なようであまり積もらなかったが、歩道の脇に固く汚れた残雪が散見された。風はいつも強い。部屋の窓ガラスが横殴りの風にぐっと堪えている。
「午後になったら帰ってくるから」と言って仕事にその人はでかけた。午後になったらどうしよう、彼の対応はできないかもしれない、と思いながら昼食の支度をした。
答えは出ないまま、そのほかの人とも話をしたり、お風呂の手伝いをしたりして過ごした。「どうしよう」は「どうしようかな、対応の仕方」に変わりその人の話をとりあえず聞いてみるしかないと思った。
午後1時に彼が帰ってきた。しばらくすると、リビングにやってきた。洗濯ものをたたんでいる。私も隣に座って一緒にたたんだ。
「あなたは彼女が欲しいの」と尋ねてみると「そうです」と大きい声で答えた。率直だった。そうか、と答えると
「結局そこそこ謙虚にそれなりにさ、我慢して生きろってことだろ、仕方がねえよ」と言う。
彼はスマートフォンをポケットから取り出して、「加藤ミリヤ」の曲を流し始めた。