【前回記事を読む】彼の部屋で2人きり…「あなたの裸だから見たいんだ、分かるか」と告白された。若くもない私に彼は「綺麗だ」と…

裸を見せて

私は左手の薬指を見せる。そしてなんでもしてあげたいよ、でも、と小さい声で言う。

「だからさ、こんくらいの触れるか触れないかの距離がちょうどいいかなって思う、俺」

時間も空気もなくなったような気がした。

 

「大好きって言って」

顔があげられない。少し目線を上にあげると優しい男の人の眼差しが見える。

「大好き」

 

「愛してるって言って」

すごく周りが静かに感じる。小さな声で言う。

自然に口から零れる。

「愛してる」

「俺も愛してる。そんな顔すんな、帰り運転気をつけろよ」

「はい、ありがとうございます」

「ほんと気をつけろよ」

手帳とバインダーを抱えてまっすぐに更衣室に向かう。急いで服を着替えて駐車場まで歩く。時間が本当になくなったみたい。夕焼け。オレンジ色のあかりがまつげにちらちらする。

運転をする。ぼうっとしているので、後ろの車がクラクションを鳴らして追い越した。メーターを見ると30キロだった。いけない、と思いハンドルをしっかり握ってアクセルをそっと踏み込む。

私は恋も愛も分からないで生きてきたのかもしれないな。そんな気持ちもオレンジからピンクに変わった夕焼けに溶けて曖昧になっていく。