あなたからこんなに綺麗なもの受け取ると思わなかったの。こんなことがあるなんて私思わなかったの。

家に帰って、娘も夫も私の顔を見て、なにかあったのか尋ねたけど、どうとも言えなくてご飯をとりあえず食べ、お風呂に入った。

朴訥先輩に話すのも違う気がした。

誰にも言えない。私だけの宝物。女冥利に尽きる、そんな言葉じゃ全然足りない。

なかなかその夜は眠ることができなかった。

 

2,3日してまたグループホームの当番だった。拓也さんは切り絵を先輩に見て欲しいと言う。なにせ、アートを愛する男同士だ。先輩はグループホームには配属されていないので、上長の許可がいる。

気が重い。

「あのね。私って言えば拓也さん、拓也さんて言えば私。『拓也さんのことそんなに好きなのかよ』みたいにほかの職員が思ってるんだよ。私身の置き所ないのよ。分かる?」

いつもの調子で私は言った。

「おお、いいじゃねえか、そこまでいったらよ」

いいもんか。どこまでいったんだよ。

「ほら額にちゃんと入れた。これ好きに先輩にアレンジしてもらっていいぜ。頼んだ。あとこれ、宿直の神田さんに渡してくれるか」

切り絵が収まったフレームに、小さなプラスチックの容器、なにか入っている。

「これな、朝顔の種、青い花咲くんだって。よかったら蒔いてくれるかって言って」

上長に、朴訥先輩に、宿直の神田さんまでに「拓也さんが、拓也さんが」と言わねばならんのか、と思うとだいぶ気が重い。できれば拓也さんの名を出さないで一日を終えたい最近なのだが。

上長に恐る恐る、先輩がグループホームへ行って拓也さんの作品にアドバイスしたり一緒に作業をしていいかお伺いを立てる。また拓也さんかと苦笑していたようだが、

「いいですよ」

と許可が降りた。