あまり親しくない友達に切ない恋愛の相談をされた気分、と言えば分かってもらえるだろうか。今の私はそんな気分じゃないのだけど、彼はそういう気分みたいだ。人の気持ちはすれちがう。

「これ、30代半ばの女性が聴くラブソングですよ、合コンとかで『カトミリ歌うとき相当酔ってる。昨日私歌った、あ、歌っちゃった。やっちまったわ』てなやつですよ。あなたはいつもこんな気持ちでいたんですか」と思いながら隣に座っていた。面食らってもいた。

卑猥なことを言われるというのは、容姿を褒められることや「一回くらいさせてくれ」と言うことだったので、なにを言ってるのと軽くいさめるだけで済んでいたのだが、段々に様子が変わってきて、「一回だけ抱きしめさせてくれ」、と何度も言うようになった。

勤務時間中に隙あらば言ってくるので、そしてそれが2日間続いたのでだいぶ消耗した。一回ならばいいかと思ったり、ダメだろうと思ったり。だいぶ考えた。

そうして、ほかの職員に「セクハラされているんです」というのは、彼の気持ちに大して失礼ではないかという結論に至った。

私はあなたをちゃんと一人の男性として見ているぞ。第一、男が女を抱きたいと思ってなにが悪いんだと思った。その人が「俺はもと反社」と言っているが、実は職人で、手先が器用で、繊細な切り絵を作ることを知っていた。