【前回記事を読む】左麻痺なのに、勝手にボールを蹴って遊び始めた彼。危ないのに「ほら追いかけろ、ワンワン」と巻き込まれ、「馬鹿」と言いつつ…

裸を見せて

木の芽どきは気をつけなければいけない。2月から3月にかけて、寒暖差が激しくなるので利用者さんの体調や心に変調が起こりやすいのだ。桜を待たずに亡くなる方は高齢者に多かった。

しかし、今年は暖かい。雪解けの水が屋根から伝う感じもないほどだ。

拓也さんは一心に切り絵に打ち込むようになった。以前なら土曜日や日曜日は彼の仕事が休みなので、私と一緒に音楽を聴いたり、「手伝うぜ」と言ってキッチンで食事の支度を一緒に行ったりしていた。

老眼鏡をかけた拓也さんはなかなかに「いい男」に見える。私内私アワードで2位、1位で選考に迷うくらいには見える。しかし、私の王子様チバユウスケ殿堂入り。ごめんなさい。

拓也さんは左手がきかないので切り絵を切り離すときなどは私が手伝う。私は小柄なので、拓也さんが後ろから抱き締めようと思えばすぐに抱き締められるくらいの距離にいる。しかしながら、そういったインシデントは起こらない。

よし、全く頑張ったぜ、その名の通り生活支援しちゃったぜ、と自分を褒めた。誰も褒めてくれないので、ベッドの上で一人で拍手をした。朴訥先輩に褒めてほしかったが、仕方ないなあ、という表情で「頑張りましたね」と言うだけだった。夫は「どうしたの」と言いながら、むくっと布団から起き上がったが、

「私、えらいと思って拍手した」

と告げると「うん、偉いね」と言ってまた横になった。耳にはワイヤレスイヤホン、スマホの画面にはジャンボリミッキーのお姉さん、妻は見逃しませんよ。

よしよし、好調。毎日色んなことはあるけど、利用者さんに全集中すればいい。午前中の入浴介助はとても楽しい。私、こんなことしたい、これ挑戦したい、こんなことが頭にくる、これは譲れない、そんなことを聞きながら、話しながらお風呂のお手伝いをするのは楽しい。

食事の介助もとても楽しい。まず深呼吸。お米が嫌い、という男性の年若い利用者さんの世界にすっと入る。のれんをくぐるみたいな感じだ。

愛情を込めて、ご飯を食べて、君って素敵、と思うと食べてもらえる。なぜかは分からないけど、そうできる。たまたまお腹が空いていただけかもしれないけど、私は援助の際にはそんな風にイメージする。扉をノックするのではなく、薄い膜をそっと頭を下げて入っていく感じだ。ほかの職員はどうしているのか分からないが、私はとにかくそうだ。