朴訥先輩は最初は「ご飯俺嫌い」の利用者さんの介助に私が入ると全量食べることをとても褒めてくれた。
しかし、段々に「当たり前でしょ」みたいになってきたので、これはどうだ、どうだ、この支援どうよ、この読みはどうだ、どうだ、と猛烈の「私ってすごいでしょうアピール」をしてみた。しかし、先輩というだけあって何歩も先を行く。ふふん、と笑われるか、「頑張りましたね」と微笑むだけだ。
朴訥先輩の名前が折々に出てくるのは、彼に責任がある。私が異動してきた時に
「困ったら一人で抱え込まないで話して。聞くよ」
と言ってくれたからだ。
生まれてここまで困ったことはたくさんあった。それは重たく苦しいもので、友人の誰一人にも話したことがなかった。今でも話していないし、死ぬまで話さないだろうと思う。
朴訥先輩は利用者さんから、最後は朴訥先輩に相談するしかないというくらい慕われている。そして驚くほど優しい。いつも誰かの心配をしていて、利用者さん、ご家族の力に本当になっている。そして仕事も休まず、休憩もほとんどとらない。「鋼の朴訥さん」と言われているくらい。心配っていうのは、愛情がなければできない。愛がたっぷりなければ人に心は配れない。
今の施設に異動して一ヵ月ほど経った頃、昼休みに私はへばっていた。真実死にたいなあ、と思っていた。すると、朴訥先輩がまた「心折れそうなら話聞くよ、僕受け止めるから」と言うではないか。
ちょっと警戒した。話を聞くよ、という男性はそこから始まって、だいたい自分の話をする。
映画に行くとか、美術館に行くとか誘って車に私を乗せる、そして密室から密室。後は推してしるべし。
浮気や不倫はしたことがない。したいなあ、とも少しは思うがなにせ仕事、家事、育児、に追いまくられて過ごしてきたので、よろめく暇などない。
想像するにだ。不倫とかする人は相手にこっそり連絡して、「今すぐ会いたいの。近くのコンビニにいるから来て、抱き締めて」みたいなことを月に結構な頻度でするのだろう。凄くバイタリティーがあるんだな、という所感を抱く。それでも運命みたいに惹きあうものがあれば致し方なし。不倫とは「倫ならず」と書く。したくてするものではない。
次回更新は3月13日(金)、20時の予定です。