感覚受容器レベルでは侵害受容器の存在が証明されましたが、最近の疼痛科学の研究の結果からは、むしろ侵害受容器ではない感覚受容器(=非侵害受容器)がとらえた非侵害感覚が神経系の障害や故障により痛みとして知覚される場合があることがわかり、そちらの方が臨床的には問題が多いことも明らかになっています。このことは4章でお話しします。
「痛みの生理」〜受容から知覚まで〜
痛みの歴史が侵害受容器の発見まできたところで、いよいよ痛みが起こるしくみ、生理についての話に移りましょう。
医学用語の「生理」とは、体に備わっている正常機能のことです。「痛み」もまた生理機能の一種です。痛みを知覚することは〝体が正常な証〟です。小学生のとき、友達をつねって「痛っ」と言われると、「生きてる証拠!」なんてやり返しませんでしたか?
本節は疼痛学と疼痛科学が明らかにした「痛みのしくみ」の解説です。結論を簡潔に言えば、「痛みとは体が受容した侵害刺激を脳が知覚したもの」なのです。
侵害感覚受容器〜異常探知センサー〜
体組織は外部から、ときには内部から、さまざまな刺激にさらされています。感覚神経は刺激をとらえて電気信号に変換し、脳に伝えます。刺激は体組織にとって有害性のない「非侵害刺激」と、体組織を損傷するか損傷する可能性をもち痛みの元となる「侵害刺激」に分かれます。
侵害刺激は、体組織の細胞やタンパク質の構造を直接破壊する刺激のことです。注意していただきたいのは、「有害」であってもただちに組織損傷を生じない刺激は「侵害刺激」とは呼ばないことです。低濃度の酸素、高濃度の二酸化炭素、電磁波などは生命をおびやかす有害な存在ですが、直接的には体組織を破壊はしないので侵害刺激とは呼びません1。