【前回の記事を読む】胸元を見せる服は着ないようにしてきたのに…。急遽会社の20周年記念謝恩パーティーで手伝いに行くことに
訳アリな私でも、愛してくれますか
仕事だということはわかっている。断れない状況にあるのもわかる。それでも、これまで出席しないで生きてきたのに、他のパーティーはなんだったのだろう、とも思う。
(いや、それより、どうにか胸元が見えないように考えないと。今日の夜、ネットでパッドでも探そう……)
これを機に胸元が見えないような着こなしを学べるかもしれない。これからは、友人の結婚式にも参加できる着こなしノウハウを得られるかもしれない。
なんとか自分の気持ちを前に向けて、くるみはその日の仕事を始めた。
その日の仕事のあと。くるみは最寄り駅から徒歩5分程度の小洒落たレストランに来ていた。
(ヌーブラ……そういう手もあったんだな……でもこれ1枚じゃ足りなさそう……)
今日は高校の頃の同級生である岡野理子と会うことになっている。先に到着したのは仕事を定時で終えてきたくるみの方で、くるみは待ち時間の間ドレスに入れるパッドを探していた。
(というか、ドレスもどうにかしなきゃ。レンタルでいいよね……)
「くるみ! 遅れてごめんね!」
手を合わせて申し訳無さそうに小走りでやってきた理子の姿が見える。くるみは見ていたパッドをお気に入りに入れてからスマホの画面をロックした。
「全然! 気にしないで。遠かったよね?」
「ううん、平気だよ。遅い時間にくるみを歩かせるなんてできないから」
理子は新卒で大手IT関連企業に入社し、その後もずっと同じ会社に勤めている。会社からは住宅手当が出るらしく、会社までは徒歩圏内に住んでいるらしい。それでもわざわざ、今日はこうしてくるみの家の最寄り駅まで足を運んでくれたのだ。
「飲み物まだ頼んでない?」
「うん、まだ」
「何飲む?」
メニューを手渡され、おしぼりやお皿もささっと理子が準備してくれる。昔からよく気が利くところがあり、いつも先手を打たれてしまう。くるみは気が利く方ではない。
「私、お酒じゃなくてもいい?」
「うん、いいよ。会社の付き合いでもあるまいし好きなの飲んで。私も弱めのやつにしようかな」
理子は昔からお酒が飲めない。会社では付き合いで飲むこともあるらしいが、かなり弱いらしく、毎度気持ち悪くなってしまうと言っていた。くるみはカクテル、理子はノンアルコールカクテルをそれぞれ頼んだ。
店員が飲み物を持ってくると手早くくるみの前のコースターに置いてくれる。小さく乾杯をして、くるみはストローに口をつけた。カシスの香りが口の中に広がる。