【前回の記事を読む】辞めるか行くかの二択――勇気を出して出社するも、彼と目があった瞬間、笑い者するような侮蔑の含んだ笑みが…
訳アリな私でも、愛してくれますか
よく見ると、くるみと同じようにコンビニのビニール袋が笹川の脇に置いてあった。
「お名前は……『くるみ』さん、でいいですか?」
「え……あ、はい。水瀬くるみ、です」
「僕は笹川幸博と申します」
笹川がビニール袋から取り出したのは、てりたまサンドイッチ。
「あ、同じです。私もてりたま……」
「美味しいですよね、てりたま」
「はい、美味しいです」
目があい、柔和な笹川の目元につられてくるみも笑う。下がり目尻が可愛らしいと思った。2人の周りにはいつしかハトたちが集ってきている。
「それにしても、職場が偶然同じ最寄駅にあるなんて、驚きですね」
「そうですね。私もびっくりしました。名刺拝見したんですけど……すぐそこの大学ですよね?」
歩いて2,3分の場所にあるその大学は理工系の国立大学で、国内でもそれなりに有名である。
「助教って……どんなお仕事なんですか?」
「簡単に言うと、研究をしながら学生の講義のサポートをする、みたいなところでしょうか。私はある教授についているので、その教授の持っている講義の手伝いをしたり、学生のレポートの採点をしたりします」
それからお互いの仕事について世間話ふうに一通りしたあと。
「そういえば、あの日はなんであのホテルにいたんですか?」
「恩師の教授がある賞を受賞しまして。そのパーティーに参加していました」
「そっか、そういうこともあるんですね」
「はい。それで……少し心は、晴れましたか?」
笹川はこちらを伺うように見てくる。その言葉が何にかかっているのかは、すぐにわかった。
(完全にって言ったら、それは嘘になるけど……)