「前向くしか、ないって感じですね……」

「そうですか……まぁ、そうですよね。いつまでも泣いていられないと」

「はい。そういうことです」

サンドイッチも食べ終えて、2人は手持ち無沙汰になる。くるみはスマホの画面で時間を確認した。そろそろ戻って仕事を始めてもいい頃だろう。サンドイッチのゴミを袋に入れ、チョコレート菓子を手に持つ。

「じゃあ、私そろそろ行きますね! 本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

「では……」

頭を下げて、背中を向けたそのとき。

「くるみさん」

「はい……?」

呼びかけられて足を止め、振り向く。

「もしよければ、またここでランチをしませんか? この時間、いつも僕はここでランチを食べているので」

「え……」

「ストレス、ためすぎると良くないです」

笹川はくるみが手に持っていたチョコレート菓子を指差した。

「これは他人のほうが話しやすいかもって思ったら、いつでも来てください。ハトに愚痴を聞いてもらう、くらいの感覚で」

「ハトって……はい。ありがとうございます」

自分のことをハトだという笹川に、つい笑ってしまった。そしてうなずく。

「また来ます。ありがとうございます」

「はい。じゃあ、また」

笹川にもう一度軽く会釈をして、歩き出す。自然と足取りも軽く、口角も上がる。

(なんだか心が軽くなった気がする……)

そう思いかけてすぐに、頬の筋肉を引き締める。

(いや、私はすぐ人を信じようとするんだから。ダメだ。もうあんな思いをするのは嫌だし。自衛しなきゃ)

くるみは嫌にでも大学の頃の記憶を引っ張り出して、浮かれそうになった気持ちを抑えた。