「えっ、そ、それじゃあ・・・・・・」

今度は海智が耳まで赤くなった。一夏も顔を真っ赤にして上目遣いにちらちらと彼を盗み見たり、そっぽを見たりしている。海智は唾を飲み込んで平然を装った。

「それじゃあ、梨杏は誰が好きだったの?」

「蒼先生よ」

「ええっ!」

海智は後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「でも今までそんなこと何一つ言ってくれなかったじゃないか」

「その時梨杏と、他の人には絶対言わないって約束したから・・・・・・それに、蒼君にはその時私から梨杏の思いを伝えたんだけど、『あんな女に興味ない』って言って足蹴にされたんで、梨杏にも『もう忘れた方がいいよ』って言ってそれっきりだったの」

海智はふらふらと歩いて非常階段の入り口に左手をつき、右手を額に当て、何事か思案し始めた。

「大丈夫? 海智」

一夏が心配そうに彼の顔を覗き込む。

「一夏、俺達はとんでもない勘違いをしていたかもしれない」

「勘違い?」

「七月十八日のこと、もう一回よく思い出してほしい。夜中からじゃなく、君が出勤した時のことから」

「ええっと、あの日は夕方出勤したら、救急病棟の中村大聖を四階病棟に移動するから手伝ってくれって言われて、もう一人のナースと救急病棟に行ったの。そこから蒼先生と三人でストレッチャーで四階に搬送したのよ」

「大聖は自分で呼吸ができない状態だったんだろ」

「だから救急病棟で人工呼吸器を外して、蒼先生がアンビューバッグで人工呼吸しながら移動したの」

次回更新は7月20日(日)、11時の予定です。

 

👉『眠れる森の復讐鬼』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】一通のショートメール…45年前の初恋の人からだった。彼は私にとって初めての「男」で、そして、37年前に私を捨てた人だ

【注目記事】あの臭いは人間の腐った臭いで、自分は何日も死体の隣に寝ていた。隣家の換気口から異臭がし、管理会社に連絡すると...