第4章 孤立死の発生が止まらない
「孤立死」と「孤独死」は意味が違うと言われている。孤独死とは、たまたま死んだときにひとりであった死を指す。近所に友人がいて、親族がたまに様子を見に来たりする、スーパーや病院などでも気にかけてくれる人がいる、そういう人がひとり部屋で亡くなった場合が孤独死だ。
一方、孤立死とは、誰もその存在を気にかけてくれる人がおらず、社会的に孤立した状態での死を指す。誰にも気が付かれずに死を迎え、腐敗したご遺体となり、やがて異変に気が付いた周囲の人に発見される。
孤立死はなんと悲しい状況ではないか。その人の人生の中で輝いていた時代はあったはずだ。多くの人に囲まれて幸せだったときもあったはずだ。しかし、もはや故人の死を悼む人は誰もいなくなっているのだ。
孤立死の事例は近年増加し続けている。無縁社会とも言われる環境の変化はマンションにも確実に影響を与えている。
隣の家の孤独死
ことの発端は2か月ほど前のことだ。ひとり暮らしのある男性が、仕事に出かけるために廊下を歩いているとどこからか異臭がしてきた。廊下に面した隣家の換気口から漂っているようだ。
隣に誰が住んでいるのかは知らないし、会ったこともないがこんな臭いをたてられたのではたまらない。
男性は、管理会社に「とんでもなく臭い、なんとかしてくれ」と電話をかけた。すぐに確認すると言う。
その日、仕事を終えて帰宅すると、隣の家に、いかにも警察関係者と思われる数人があわただしく出入りしていた。ただならぬ雰囲気に、直観的にきっと誰かが死んだのだろうと思った。
通り過ぎようとする警察関係者に「お隣の方は亡くなられたんですか」と聞くと、ちらと振り返って小さく頷いた。
あの臭いは人間の腐った臭いだったのか! 自分は何日も死体の隣に寝ていたということか。なんて気味の悪い。背筋がぞっとする。急に家の中に入るのがいやになった。こんな家に住んでいたくない。それにしても誰も気が付かないなんてどういうことだろう。親戚や友人はいないのか。
ふと、自分自身を振り返る。今は仕事をしているから、出社しなければ職場の人が気が付いてくれるだろう。退職していたらどうか。親戚とも疎遠になっているし、会社の同僚以外に友人と呼べる人もいない。
退職したら隣人と同じ道をたどるのか。ふと不安になる。