第4章 孤立死の発生が止まらない

タダでも売れないマンション

亡くなった両親が住んでいたマンションを相続した男性は、困っていた。父親が昨年亡くなり、その後を追うように母親が亡くなった。しかも、母親が亡くなったときは誰も気が付かず、数週間が経過していた。

警察から遺体が発見されたとの電話があったとき、母の遺体は腐敗しており、特殊清掃が必要な状態になっていた。

母には申し訳ないことをしたとは思っている。男性はひとりっ子であり、母は愛情を注いで育ててくれた。このマンションは自分が相続することになるだろう。

しかし、申し訳ないという感情と財産問題は別の次元の話である。男性はこんなマンションはほしくないと思っていた。彼は都心部に自分のマンションを所有している。妻は母の死の状況を気味悪がって相談にも乗ってくれない。

そこで、勤務先で取引のある不動産会社に事情を説明し、相談に乗ってもらうことにした。不動産会社は少しの遠慮もすることなく厳しい評価をする。

「駅から遠く、築年数も経過しています。さらに事故物件という扱いになりますね」「貸すとしたら家賃は○万円、内装工事をして売却するにしても、数百万円になればいい方、売れるかどうかも分からないですよ」と言われた。

他に方法はないものか。男性はインターネットで検索した。そして「相続放棄」という方法があることを知った。

「これしかない、こんなマンションを所有していても、無駄に管理費や積立金を払うだけだ。一日も早く相続放棄の手続きをしよう」

それから3か月経過した。相続放棄されたこの部屋の管理費と積立金は誰からも支払われていない。