マンションでは、同じマンションを所有している人の相続問題に突然巻き込まれることがある。
ある人が死亡したとしよう。子供がいれば、子供がマンションを含む財産を相続する。この「財産」というのが問題で、現金預金や不動産の他、借金などの「負の財産」も相続されてしまうのである。
では、子供は親の借金を必ず相続しなければならないかというとそうではない。「相続放棄」という制度がある。つまり子供が「財産なんかいらない!」と言って手続きすれば、マンションも相続しないですむ。この相続放棄を相続人全員が手続きしたらどうなるか。
所有者がいなくなってしまう、つまり、管理費の支払い義務がある人がいなくなってしまうのだ。困るのは管理組合である。
こうした所有者不在の部屋が増加すると、最悪の場合は、管理費や積立金が不足して、必要な管理や修繕ができなくなってしまう。
相続人全員から相続放棄された場合、その後の手続きは、司法書士や弁護士などの「士業」の先生方に相談するのが一般的だ。
手続きの流れを紹介しよう。最初に、相続人が本当に誰もいないのかを確認する。これが相続人調査である。この結果、本当に誰もいないことが確定したら、裁判所に清算人選任の申し立てをする。
清算人が選任された後にマンションを売却することになる。売却が成立すれば、購入した人がそれまでに滞納していた管理費等を支払う。ここで管理費を回収できるというわけだ。
しかし、多額の滞納管理費があるマンションをそのまま購入する人はいない。滞納分の管理費は売買価格に反映され、その分を差し引いた金額で売却しなければならないことになる。購入者からすれば、マンションの価格+管理費等の滞納額=購入価格になる。
管理費等の滞納額がマンション価格を上回れば、ゼロ円でも売れないマンションになってしまう。
「ゼロ円でも売れないマンション」の存在は郊外や地方などの不動産価格が低い地域では、そう珍しくない。売却できなければ管理費は回収できない。ここまでいくと、管理費等の全額の回収はほぼ諦めなければならなくなる。他の住民がその費用をかぶることになるのだ。
「私は管理費をきちんと払っているから関係ない」と思っていても、マンション内で起きた別の部屋の相続にいつの間にか影響を受けることもあるのだ。
それでも、こうした問題が発生していることはあまり知られていない。問題が表面化しないことには、別の理由がある。
マンションの理事会では特殊清掃がされたり、相続放棄があったりするとどのように対応していくかを検討している。ところが詳細な内容はほとんど引き継がれない。負の情報は、他の居住者には知らせないままにしておいた方がいい、という心理が働いているのだと思われる。
確かに「負」の情報が広がれば、中古マンションとしての価格が下がるかもしれない。さまざまな不安が孤立死を隠し、解決方法のノウハウが蓄積されない要因となっている。
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