第3章 認知症高齢者の増加が止まらない
オートロックの前に呆然と立ちすくむ人
管理会社が管理員業務マニュアルなどを作成し、均質なサービスの提供に努めていても、最終的にどう対応するか判断するのは人間だ。
どのようなサービス業であっても、大なり小なり個人の人間性による部分は存在はしているだろうが、マンション管理は生活に密着しているためか、特にその要素が現れやすい。
この事例では、日常的に管理員がオートロックを管理事務室側から開錠している。しかし、管理員業務は原則として、いわゆる「顔パス」でオートロックを開錠することは許されない。
不審者をマンションの中に入れてしまう可能性もあるからだ。この管理員はいわば、会社の示したマニュアルに反して、その業務を行っていたことになる。
それでも、管理員は毎回、ご本人が鍵を探し回る姿を見ていられなかったのであろう。結果として、ご家族からも理解を得て、デイサービスの日を調整することで居住者の方から感謝されているが、本来であれば、トラブルが発生する前に管理会社の担当者に相談すべきであった。
管理員の日常業務から聞こえてくるエピソードには、感動的な話も多い。しかし、その対応が全員の管理員で均一に提供できるわけではない。
こうした話を公開すると、「うちのマンションの管理員さんはそこまでやってくれない。管理員を交代させてほしい」という話になることすらある。
マニュアルにならない対応をどうしていくのか、重たい課題である。
ゴミ屋敷に住む人
この部屋に住む男性は50歳のときに妻と離婚していた。親類とは疎遠である。現在受給している国民年金も少額であり、今までの預貯金を取り崩してなんとか生活している。そのうち貯金も底をつくだろう。その後のことは考えていないし、考えたくもない。
一日がなんとなく過ぎる。料理をするのは面倒なので、インスタントの食品や缶詰ですませている。何日経ったのかは分からないが、ゴミ袋がいっぱいになると、ゴミを捨てに行くことにしていた。
ある日、見知らぬ女性から「今日は燃えないゴミの日ではありませんよ! それに、ちゃんと分別してください!」と強い口調で言われた。分別はきちんとやっているつもりだ。知らない人間にいきなり高圧的な話をするこの手の女性は苦手だ。
それ以降、なんとなくゴミを捨てに行くのがいやになった。またあの女性に出くわして怒鳴られたりするのは面倒だ。
いつの間にか、男性の部屋にはゴミがあふれ、やがてバルコニーにまであふれるようになっていった。