【前回の記事を読む】「あの世で娘と幸せになりたいの…」――娘をいじめていた加害者たちを次々と手にかけた母親。さいごは岬の展望所で…
眠れる森の復讐鬼
「ちょっと、何であんたこれ洗濯してないのよ」
朝から海智の退院の手伝いに来ていた裕子がビニール袋の中の下着を取り出しながら言った。
「もう退院なんだから家ですればいいだろ」
「どうせ洗濯するのは私なんだからね。くさっ」
裕子は顔をしかめながら手際よく荷物をまとめていく。
「それはそうとほんとにびっくりしたわよね。まさか信永さんが犯人だったなんてね。朝からTVもそのニュースで持ち切りよ。やっぱり娘さんのことで相当恨んでいたのね。それにしても娘さんまで殺してしまうなんてね……」
そこへ白衣の一夏が病室に入ってきた。
「退院おめでとう、海智」
「ああ、ありがとう。もう仕事に復帰できたんだね」
「うん、疑いが晴れたからね。あ、こんにちは」
きょとんとしている裕子に一夏が挨拶した。
「ああ、あなたが石破一夏さん? 海智から聞いているわ。大変だったわね。あなたが犯人じゃないかって疑われていたんでしょ。私は絶対違うと思っていたのよ。こんな可愛い子に殺人なんてできるわけないじゃない。ねえ」
「母さん」
海智は戸惑っている一夏の表情を見ると慌てて裕子を制した。
「また連絡するよ」
「海智、ありがとう。私が戻れたのもあなたのおかげよ」
「いや、結局俺は何もできなかった」
「ううん、海智がいてくれたおかげで私はすごく心強かったの。本当にありがとう」
飛んでいる蝿を目で追う猫のように裕子が二人の顔を呆然と交互に見渡していた。
「じゃあもう行くよ」
「うん、元気でね」
一夏と別れ、一階へ降りるエレベーターの中で裕子が肘で海智の脇腹を突いた。