【前回の記事を読む】不自然な当日の行動。直接卸業者から薬剤の購入――全てを明らかにするために海智と一夏は蒼の元へ
眠れる森の復讐鬼
「それなら既にトリックは解けた。まず、七月十七日、あの三人が救急搬送された時、お前は連中に復讐することを決めた。翌日、頭部外傷で意識不明の大聖を四階病棟に搬送する時にお前はおそらくわざとアンビューバッグと挿管チューブの接続を外していたんだろう。
こうすればバッグを押しても、肺に空気は入っていかない。或いは接続されていてもわざと人工呼吸を弱く少なくした。しかも敢えて搬送途中でCT室に寄って、無呼吸の時間を引き延ばした。確実に大聖を殺すためだ。
通常心肺停止になれば移動式モニターで気付くはずだが、一夏達に気付かれないように画面を自分の方だけに向け、アラームの一時停止を繰り返した。だから四階の病室に辿り着いた時は大聖はもう息絶えていたんだ。一夏達に人工呼吸器を準備させている間に、当日導入したばかりの新型のベッドサイドモニターを大聖に装着した。
このモニターの説明書を読んだよ。従来のモニターは電極・マンシェット・パルスオキシメーターを患者に装着すると直ちにその患者の心電図・血圧・酸素飽和度が表示されるから、これでは大聖が死亡しているのがすぐにばれてしまう。
だが、この新型ではまずデータは入力ユニットという機器に入り、そこからコネクタを通してモニター本体に飛んでいく。この時、患者認証操作を行わないとすぐにはモニターされない仕組みだ。しかも、このモニターはモニターネットワークで共有されている離れた病室の患者のデータも表示することができる。お前はこれとは別に従来の同社製のモニターを借りていた。
おそらくそれを梨杏に装着し、四〇三号室中村大聖と登録し、四〇三号室の新型モニターに表示させ、ナースステーションのセントラルモニターにも飛ばした。つまり、四〇三号室とセントラルモニターに表示されていた大聖のバイタルサインは実は全て梨杏のものだったんだ。
こうすれば、既に死亡している大聖が夜中までは生きていたことになり、自分のアリバイが作れる。勿論よく見ればそれが他の病室のモニタリングであることは分かるようになっているが、初めてその機器を見た一夏達には気付けなかったんだろう。
そして、夜中になってからお前に事前に指示されていた梨杏が四〇三号室に行き、人工呼吸器を停止させ、呼吸回路を外した。そこから自分の部屋に戻る時に一夏にその姿を目撃されたんだ。
黒いバッグは自分に装着されている携帯型のベッドサイドモニターを隠すためだ。自分が部屋に戻るまでに心停止がばれたら困るからな。部屋に戻った梨杏が自分のモニターを外すと、まるでその時点で大聖が心停止したように見せかけることに成功した。
梨杏につけていたモニターはお前が後から倉庫に返した。だが、梨杏は元々電極アレルギーがあった。だから翌日に経子さんがナースステーションに軟膏を貰いに来ていたんだ」