「お前、馬鹿じゃないか? 信永梨杏は八年間も人工呼吸器に繋がれて昏睡状態だったんだぞ。それがどうやってそんなことができるって言うんだ」

「それが一番の謎だった。だが、お前が卸業者からフェンタニルという麻酔薬を直接購入していると聞いて謎が解けたよ。梨杏はおそらく最初から意識があったんじゃないか? お前は日中はフェンタニルを彼女の補液に混注して眠らせておいた。この状態では苦痛は全く感じないから昏睡状態と同じというわけだ。

そして、夜間になったら中止して覚醒した彼女にリハビリをさせた。これなら昼間眠っているだけだから夜は普通の人間と同じように動けるはずだ」

「・・・・・・」

「石川嵐士が殺された時もお前が当直だった。薬剤部の芳谷さんがお前のクレームに対応している隙に、お前は注射室に忍び込み、100mLの生理食塩液の箱を見た。

いくつか使ってあれば普通はその順番で使うだろうから、次に使うであろうボトルのキャップの隙間から多量のインスリンを細い針で混注した。その時間帯以降に他に生理食塩液を投与する患者がいないことも電子カルテで調べていたんだろう。

そして、前回と同様、その罪を一夏に押し付けた。お前、彼女が夜勤の時をわざと狙ってやったんだろう。大聖が死んだ日も本当は山下先生の当番だったのをお前が自分から替わったと聞いたぞ。何故だ。たとえあの連中が憎くても、一夏は関係ないはずだ。どうして彼女に罪を着せようとした」

「その女も同罪だからさ」

蒼は冷たい声で言い放った。

「同罪・・・・・・」

一夏の顔色が変わった。

「そいつは梨杏の親友のふりをしていたくせに、彼女が虐められたらすぐに裏切って逃げ出したじゃないか」

「ち、違うわ・・・・・・私・・・・・・」

一夏は今にも泣き出しそうな顔になり、言葉に詰まった。

「蒼、何があったのか全て話せ!」

海智が叫ぶと、蒼は再び既に日が沈んだ茜色の空に視線を戻した。

次回更新は8月10日(日)、11時の予定です。

 

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