【前回の記事を読む】事件が終わり退院の日を迎えた。しかし、何か割り切れない違和感を感じて眩しい光から視線を避けた時に目に入ったのは……
眠れる森の復讐鬼
ナースステーションの前で両膝に手をつき、背を屈めて息を切らしている海智を見て一夏が慌ててやってきた。
「何、忘れ物?」
「経子さんは・・・・・・経子さんは犯人じゃない」
「えっ、どういうこと?」
「一緒に来てくれ」
昼休みまでもう少し時間があるが、海智は無理に一夏を外の非常階段の入り口まで連れ出した。
「経子さんが犯人じゃないってどういうこと? だって大勢の人が見ていたのよ」
「確かに梨杏、高橋、桃加を殺したのは経子さんだ。でも、中村大聖と石川嵐士は殺していない」
「どうしてそれが分かるの?」
「あれだよ」
海智は非常階段の入り口の上方の壁を指差した。そこには監視カメラが設置されていたのである。
「さっき無理言って警備員さんに事件があった二日間の映像を見せてもらったんだ。誰も映っていなかったよ。経子さんはここに監視カメラがあるのを知らずに嘘をついたんだ」
「じゃあ、経子さんは誰かを庇ったってこと?」
「おそらく。それに何かずっと違和感を感じていたんだ。俺が梨杏の姿を見た時、喉から気管チューブが出ていて、左手には点滴チューブがぶら下がっていた。経子さんがいくら梨杏の姿になって復讐しようとしたとしても、そこまで精密に扮装する必要があるか?」
「そういえば、私が梨杏を見た時も喉頭部から気管カニューレが出ていた。じゃあ、あれはやっぱり梨杏だったの・・・・・・」
一夏は顔を手で覆いうつむいた。