【前回記事を読む】久しぶりのフットサル。仲間が近況報告しあう中、私は、自分の体のことを誰にも言えないでいた。もう右手ではタバコも持てなくて…

1 始動

荒川 2011年

「え?」

周りから失笑が起きる。とっさに「いやー、今日、超寒いなぁ! 脚動かねえや」「数年ぶりのブランクってこえー!」と、おちゃらけてみたが、明らかに右脚が反応しきれていないのが、自分では分かっていた。たかが二、三年ボールを蹴っていないだけで、こんなことあるわけがない。

サッカーがやりたいがために、母親に迷惑をかけてまで強豪校に進学したのに、こんな女性アイドルがキャピキャピしながら「初めてサッカーしますぅ」みたいなミスをするはずがない。

そんなことより、右脚のこの違和感はなんだ!

ボールを拾いに行き、軽くドリブルをしてみる。感触はある。だけど感覚が、知ってる感覚とは全然違う。強いて言うなら30センチくらいある靴ベラを、カカトに入れたままボールを扱ってる感覚だ。

遠くからロングパスを送る。が、ボールは上がらず、子供が投げるボーリングの球のように、コロコロとチカラなく、仲間の元に転がっていった。

その瞬間、今までの身体の異変は、ただごとではないという、確信に変わった。

「ちょっとタンマ、今日ダメだ」「オレ今日、キーパーやるわ」

脚が変だなんて言える訳もなく、その言葉が、今、言える限界のSOSだったのかもしれない。