【前回記事を読む】ガシャーン! 天と地が逆さまに視界に映った。「派手に躓いたけど大丈夫か?」と聞かれて初めて、自分が躓いて転んだことに気づいた
2 退化
慶応仲通り 2013年
「邪魔だから、生きるな」
私には、そうとしか聞こえなかった。
その日休みだった私は、総務部に今後のことを相談するために、本社を訪れていた。
総務担当は、私が入社した頃によく指導してくれた上司であった。
接客するのが身体的に難しくなってきたため、事務仕事に回してくれないかと、直談判することにした。
どうしても会社に残りたかったし、まだ会社に貢献していきたかった私に、放たれた言葉は意外にもあっけなかった。
「ウチの会社に、あなたを受け入れられる部署はない」
要するに、病気になって接客することが出来なくなったオマエが、働く場所はないということだ。
それが10数年間、働き続けた私に会社が下した言葉だった。
子供の頃から何度かお世話になっていた会社。
倒産しても残り続けた会社。働けるギリギリまで、売場に貢献してきた会社。
その言葉が返ってきた瞬間、もうどうでもよくなってしまった。 働くことにも、会社に貢献することにも、なんも意味がないと。
事務仕事、裏方の仕事、何一つも提案されなかった。
買収された会社だとはいえ、余りにも酷な一言だった。
帰りの山手線の車内、私の脳内は、
「邪魔だから生きるな」
その言葉だけがループしている。