思い立った伏線は、何個かあって、アユは海外旅行の話や国内旅行の思い出話を、私に話す機会が多かった。
モロッコの砂漠は、他の砂漠と比べて赤っぽいオレンジ色なので、日の出と共に見ると幻想的で良かったことや、モルディブでスキューバダイビングをした際に、差し歯をなくして意気消沈してたのだが、翌日違うスポットでダイビングしてるときに、目の前になくしたハズの差し歯が浮いていた摩訶不思議な話やら。
仕事がら、まとまった休みを取ったことがなく、国内旅行も疎い私に、事あるごとに面白おかしく旅行話を話してくれていたため、いつかまとまった休みが出来たら、旅行に行きたいと強く思うようになっていた。 そんな影響からか、会社に半ば捨てられた私が、世界一周○○○万円から!という広告に反応したのも必然だったのかもしれない。
結局その日はサカモト社長に打ち明けられず、大人しく家路につく。
今後のことを、仕事のことを、旅に出たいことを、
アユに伝えるために、ヒデジの店に寄らずに帰ることにした。
中学の英語の時間も、ちんぷんかんぷんで、
高校の最初の英語の授業で、アルファベットのABCからスタートするような学校出身の私には、英会話など無理難題である。
洋楽のアーティストを聴いてる時も、もっぱらメロディーが心地良くて聴いている。
それと正直、洋楽=邦楽よりカッコいい、という浅はかな考えで聴いていた。
そんな私の選択肢に、海外に行くというカードは持ち合わせてなかった。
先ずは北の宗谷岬から攻めて、鈍行列車を乗り継いで、最後は南の波照間(はてるま)島に行こうかなと。
途中友達に会いに仙台へ、次は山形へ。一度東京へ戻り、
富山方面へ行き黒部ダムを見て、石川を回遊して関西へ行こうかな。
なんてことを考えながら仕事をする日々。
暇が有れば日本地図と時刻表と睨めっこをし、仕事に身が入らず。
ズタボロの気力も落ちたオウムのように、来店したお客さんを接客していた。
次回更新は7月28日(月)、20時の予定です。