1 始動

芝浦① 2009年

あの日はマイケル・ジャクソンの『Bad』がブラウン管から流れていた。

世間は地デジに移行を推進しているが、外国人からしてみたらウサギ部屋のように小さく、ごく一般的な日本のワンルームの部屋で、私は一人、2008年の12月30日を迎えていた。

テレビではマイケル・ジャクソンのニュースから今年の流行語へ、巷では草食男子たる者が街に溢れかえり、その代表として人気俳優が俎上にのっていた。その映像を観ながら「くだらねぇ」とテレビに向かって話し掛ける。

あー、20代半ばのくせに独り言だなんて …… 。

大抵人前に出る時はフクイケンイチを演じている。しかし唯一ワンルームにいる時だけが本当の自分なんだと、肩肘張らずにいられる空間だ。誰に見られることもなく、ハナクソだって穿って良い。

そんなことにふけっている間に時刻は23時を回っていた。明日は大晦日で店舗も短縮営業のため、遅番ではなく9時出勤。翌日朝の出勤に備え珍しく早めにベッドに入る。

「今年は …… 」

私は、そう口に出しながら、思い出すのを止めて羽毛布団を頭のてっぺんまで被せた。

最初の異変に気が付いたのは、まだまだ寒さで身体が縮みこむ2月か3月だった。全て自炊とまではいかないが、料理を作るのが億劫ではなく、むしろ好きだ。誰かに作ってあげたいという願望に駆られることもなく、料理できる男子=モテるという『anan』の中吊り広告にそそのかされて作るようになった。