【前回記事を読む】明らかに右脚が反応しない。長い靴ベラを踵に入れたままボールを扱ってるような感覚…ただごとではない。この違和感は何なんだ!
1 始動
南麻布 2011年
物心がついた時には既に東京にいて、下町ではあったものの山手線の駅までは、自転車で10分程度の街に住んでいたので、人生の殆どを山手線と共に暮らす生活をしてきた。
母親が働いていた飲食店は、渋谷の電力館の近くだったので、よく小学生だけで遊びに行ってたし、母親とサッカーを観に行くのに待ち合わせしたのは、新橋のホームだった。中学校の友達と買い物に行くのは、ガラクタ貿易だったし、初めて付き合った女の子のプレゼントを選ぶのに、3時間ぐらいABABの指輪コーナーを眺めてたし、就職先の本社は稲荷町だった。
なにかと上野に縁がある。
社会人になってからも、そんな山手線沿いに住んでいたが、2011年3月に引っ越した先は南麻布。その頃に付き合い始めた女性と同棲を始めたのだ。
マサミという私の10コ上の女性との出逢いは、私が高校生のとき、ストリートライブを行っていたときに遡る。彼女は音楽業界やテレビ業界の仕事をしていて、偶然、ハチ公前でショートコントを披露している私達に足を止めて、話し掛けてくれた。それ以来、年に数回、たまにお笑いの話や音楽の話などをする程度の仲だった。
2010年末、私の携帯番号が変わった旨をマサミに連絡し「久しぶりに会いましょうか」という話になり、お互いの近況を報告、そこで私は彼女に右指の違和感の話を自然に出来た。
毎日会う人や仕事仲間や同級生には話せないでいたのに、久しぶりに数年ぶりに会う彼女には話せた。不思議だった。カミングアウト出来た安心感と充実感からか、その日以来、私は西麻布にある彼女の家に上がり込むことになる。