【前回の記事を読む】窓の外を見れば満天の星。イヤホンを耳にさせば曲名は知らぬが懐かしいエレキのサウンド。そういえばあの時のバンドの仲間は…?
五、 さすらいのギター
ベンチャーズが大人気で、それを模したアマチュアのバンドが、あちこちに誕生していた。
加藤も石岡ほどではないが、ギターの心得は少しはあったので二つ返事でOKした。
それから意外に時間はかからず、メンバーを四人揃えることが出来た。リードギター石岡稔、サイドギター近松和人(ちかまつかずと)、ドラムス高山徹(たかやまとおる)、ベース加藤清武という同期ばかりの布陣が整った。
バンド名は〈ザ・ルーズボーイズ〉とした。いいかげんな野郎たちという意味だが、そんなにいいかげんな面々ではない。道具は会社内のスーパーマーケットで月賦で購入した。
四人揃っての練習は寮ではうるさくて出来ない。それぞれ部屋で静かに練習して、時々すぐ近くにある会社の講堂で揃って音を立てて合わせる形をとった。
女性社員の佐野(さの)エリカが、ボーカルとして勝手に練習に参加するようになった。
その内寮生たちが練習を聞きに来たり、曲に合わせて踊ったりする者も出てきた。
バンドが出来たことはすぐに会社に知れ渡ったが、意外に「やめろ」という圧力はかからず、逆に労働組合からクリスマスパーティーで演奏してほしいという申し入れがあり、受けることにしたので練習には益々熱が入った。
そして一九六五年十二月のニホンタイヤ技術開発センター労働組合主催のクリスマスパーティーが開催されたのである。
マルハナ蜂のブーンという音をイメージして作曲されたという『バンブルビーツイスト』が、広い講堂に響き渡り、ザ・ルーズボーイズの演奏が始まった。
リードギターの石岡稔の高い周波数で上下にはじくピックが、バンブルビーの羽音を繊細に表現している。