【前回の記事を読む】砂漠の中の映画館。砂の上にじかに座って観る映画は従業員の唯一の娯楽であった

八、 砂漠の映画館

「そうたい。タイヤがどうやって死んでいったのか、寿命を全うしたのか、していないとすれば何が原因だったのか。我が社の製品だけじゃなく、他社も、特にフランソワタイヤの死因を見極めることが、今後のタイヤ開発の重要なヒントになるたい」と、加藤が点検しながらつぶやいた。

また黒点を求めてさまよう。

朝方はさわやかだったが、陽が上がってくるにつれて急激に暑くなる。一日の気温の差が激しいのが砂漠の気候である。

水をしっかり飲むが、すぐに蒸発してしまう感じだ。

はるかに遠い青い空を薄茶色のうねりが切り裂いている。

三六〇度見回すと一か所に水たまりらしきものが見えるがそうではない。陽炎のいたずらで逃げ水と呼ばれる現象だ。この逃げ水に騙されてさまよい続けて死んでいった旅人は何人いるのだろうか?

その後更に五本の廃棄タイヤを見つけることが出来た頃に昼時となった。

レンジクルーザー車が作るわずかな日陰の部分に、車に寄りかかって座り、持ってきたサンドイッチをほおばる。日向と日陰の温度差が大きいのも砂漠の特徴だ。時折吹く熱い風が、日陰のさわやかさを消し去る。

砂嵐の時はこの熱い風が暴れまわるのを想像すると、いや想像出来ないが、ぞっとすると同時に今は砂嵐の季節ではないのを感謝する。

わずかな昼食休憩の時に、井原はドライバーに宣伝品のキーホルダーやボールペン、ライターと共に、心ばかりのチップを添えて渡しながら、労いの言葉をかけた。

「我々の調査に協力してもらってありがとう」

ほどこしは当たり前の世界だから、ドライバーは無表情でそれを受け取り、胸ポケットから煙草を取り出し、早速もらったライターで火をつけた。