【前回の記事を読む】昔はフランス映画主体だっただろうが、今は大統領の「とにかくフランスとは縁を切る」という方針が娯楽映画にも及んでいるらしい

八、 砂漠の映画館

二人はまたドライバーと共に廃棄タイヤを求めて基地を出発した。そして昼までに合計十二本、その内メルセデストラック用大型タイヤ五本が見つかった。

基地へ戻り昼食を済ませると、二人はハリールへ報告すると共に今後のことを打ち合わせるためにオフィスへ出向いた。

「結局何本点検出来たか?」とハリールは聞いた。相変わらず上から目線の口調である。

かつてフランス人がアルジェリア人に対して見せた態度を、今はアルジェリア人が我々にやりかえしているんだ。井原はそう思った。

「メルセデス大型トラック用タイヤが十一本ですべてフランソワのサハラXでした。その他もろもろのサイズが十三本で合計二十四本点検出来ました」と、加藤がメモを見ながら説明し、それを井原が通訳する。

「ほう! 広い、そしてくそ暑い砂漠の中でよくそれだけ見つけられたな。それで結論は?」

「サハラXの一番の問題はやはりビード回りの亀裂成長です。その他のサイズは完全摩耗で使い切ったかアクシデントによるカットで廃品となったものでした」

「そうか。メルセデス大型トラックには過去アメリカやイギリス製のナイロンバイアスタイヤ(タイヤの内部にナイロンコードを敷き詰めたキャンバスを交差状に何枚も張りつめて骨格を形成したもの)が使われていた。しかし耐久力不足で使い物にならなかった。

そこでフランソワタイヤが技術者をこの砂漠に送りこんで研究の末開発したのがオールスチールラジアルタイヤ(タイヤ内部にスチールコードを放射状に張り、踏面部に同じくスチルコードをベルト状に強力に巻き付けたもの)のサハラXだ。

これによりタイヤライフが格段に延びた。舗装と砂漠をミックスで走る使い方でだいたい五万キロメートル、砂漠主体で走ればあまり摩耗しないから八万キロぐらいがサハラXの寿命だ」ハリールの説明を加藤も井原も夢中でメモしている。