「どんなタイヤでもサハラXにはかなわなかった。ニホンタイヤには期待していいのだろうか? やっぱり裏切られるのだろうな」ハリールは加藤を見つめながら、独り言のように呟いた。
「ソフトサンドを走るためには空気圧を極端に落とします。それによってタイヤの側面部が張り出しパンクに近い状態になり、接地面積が増えて、タイヤは砂に潜らず浮いて走ることが出来ます。
しかし極端な低空気圧は大きなストレスをビード部に集中させ、やがて故障してしまいます。我が社の技術開発センターでは、ビード部に新しい特殊な材料と構造を適用してこの問題を解決しました」
「そうか、お手並み拝見というところだな。問題はビード部だけではない。タイヤ側面が接地することで傷を受けて本当にパンクしてしまうことがよくある。それについてはどうだ?」
このハリールの質問に対しては、
「側面部まで接地するということは、側面部が傷を受けるリスクがあるということです。これについても我が社の技術開発センターでは研究を重ねました。そして側面部のゴムを二層構造にしました。つまり外側は傷を受けにくいゴム、内側は外側に傷を受けても中に通させないゴム、いずれも特殊なゴムを二層にして解決しています」
と、加藤は自信を持って回答した。
ハリールは、
「そうか、これもお手並み拝見だ。しかし悠長なことは言ってられない。来週にはタイヤの国際入札が正式発表されるのだ。急がねばならない」と、また独り言のように言った。