井原と加藤は顔を見合わせた。そして井原がハリールに確認する。
「タイヤの入札が来週発表されるのですか? ハリールさん」
「これは公団内では正式に発表されているから言っても構わないと思うが、フランス製の物資は輸入禁止となる。これはタイヤにも適用される。つまりフランソワタイヤは締め出される可能性がある。そうするとフランソワに代わるブランドが必要となる。
一般のタイヤは使えるものがいろいろありそうだが、最も重要である砂漠用タイヤで使えるタイヤはないから、我々現場としては非常に困ることになる」
ハリールの言葉に井原と加藤がまた顔を見合わせた。今度は加藤が聞く。
「ニホンタイヤのテスト結果はいいし、今後走り込んだ時点でも問題ないと確信しています。現時点の走行キロは一万二千と一万三千です。これで技術承認はされると理解してよろしいでしょうか?」加藤はあえて二万キロメートル走行条件を言わなかった。
「技術承認の条件は〈二万キロメートル走行して品質に異常がないこと〉となっている」とのハリールの言葉に、加藤は思い切って聞いた。
「ハリールさん、二万キロ到達にはあと数ヶ月かかるのではないでしょうか。入札に間に合うでしょうか?」
「間に合うわけがないだろう」
それでは入札に参加する意味がない。加藤は祈るようにハリールに依頼した。
「テストタイヤが装着されている二台のトラックを、特別に多く走らせてもらえませんか?」
これにはハリールが怒りの色をあらわにした。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。