約束のアンブレラ
二
横川は少し考え込むようにして口を開く。横川は言葉を探しながらも、決して目を合わせることはなかった。
「あとは失踪の一週間くらい前、体調が悪く病院に行ったということも後から聞きました。僕も結婚を控え、一家の大黒柱として仕事に向き合うことに必死だったのであまり話せていませんでしたが」
「そうですか。改めてお伺いしたいのですが、三ヶ月前の九月三十日、真波さんが失踪する頃に何か異変のようなものはありませんでしたか?
人がいなくなるというのは異常なことです。何か些細な兆候でもなかったでしょうか。例えば口喧嘩のようなもの、怪しい人物の存在など、小さな変化に隠されていることが多いものでして」
三好は気まずそうに訊いた。横川は大きくため息をつくと再び考え込んだ。三ヶ月前のことだ、考え込むのも無理もない。しかし横川の脳裏には、あの頃の楽しかった様々な思い出が今も鮮明に蘇っていく。
「以前にもお話ししましたが、三ヶ月前の九月二十九日、私は真波にプロポーズをしました」
「その日にプロポーズをされたことに理由はありますか」
「付き合って二年。自然な流れで結婚するということは決めていました。両親や友人にも紹介して。でも友人に言われて気がついたのです。プロポーズというものをしていないと。真波も内向的で友人が多い方ではありませんでしたので、何も言いませんでしたが。
その日は私と真波が付き合った二年目の記念日でした。九月二十九日、いえ九二九という数字は私たちのなかで特別な数字なのです」