約束のアンブレラ
二
「それは何よりです。今はお一人で捜査されているのですか」
「十月の中頃、あなたが静岡県警本部に真波さんの捜索を嘆願しに来たことがありましたよね。あの時、一人の同僚がその姿を見ていました。私と清水の他に、別の班も久原真波さんの行方を追っています」
「そうなのですか、静岡県警のどなたですか」
横川は興奮した様子で詰め寄った。
「鳥谷元也と深瀬肇という二人です。彼らは静岡県警の名物コンビと署内では言われていましてね。特に鳥谷という刑事は異質ですよ。彼が動けばいずれ静岡県警が動きます。まだ若いですが、深瀬も関わった事件は二十四時間で進展させるって噂です。現に捜査一課長の木嶋を筆頭に、久原真波さんの行方と事実解明を静岡県警が総力をかけて見つけています」
「そんなすごい方が捜査にあたってくれているとは心強いです」
横川の表情は少しだけ明るくなった。三好は取っていたメモを閉じて横川の表情をじっと見つめた。横川が何か言い残したことがあるような目で見上げていたからだ。
「他に何か気になっていることはありませんか、なんでも構いません」
「三好さん、私がこの三ヶ月、考えないようにしてきたことがあります。毎日のように、いえ毎時間、毎分、その想像が頭を過(よぎ)るたびに押し殺してきました。仕事をして考えないようにして、前向きな言葉を紡いで、目を逸らしてきました。でも商談が成功しても、飲み会に行っても、家に帰っても何も感じません」