「ええ、わかります」

仄かに香る横川の香水に鼻が慣れてくる感覚を感じた。三好は悔しさを滲ませる。

「真波はもう、死んでいるのでしょうか」

そう言うと額に皺を作りながら横川は声をあげた。そこにスタイリッシュなセールスマンの面影はなく、唇は小刻みに震えている。

「お気持ちはお察しします。私たち警察は疑うことが本分です。しかし横川さんは信じるべきです。横川さんこそが道に迷った真波さんの帰るべき場所なのですから」

三好はそう言い残し、その場を去ろうと鞄を手に持ったが、横川は震える声で引き留めた。

「まだ続きがあります。もし真波が事件に巻き込まれ死んでいるとして、もし誰かに殺されたとして、その犯人には思い当たる人間がいます」

「誰ですか」

三好は眼鏡をあげると顔色を変えて聞き寄った。

「栗林智久という男です。この男は真波の通っていた美大で教授を務めています」

「確かその美大というのは静岡県にある紫藤(しとう)美術大学でしたよね」

「ええ、そうです。もう三十年以上教壇に立つベテランですが、この男は学生時代に真波に好意を持っていたらしいのです。この男が何かを知っているのではないでしょうか」

「あなたはそのことを真波さん本人から聞いたのですか」