横川は首を横に大きく振り、何度か問い詰めるが言葉を濁した。

「教え子でもある真波さんにかつて好意を持っていた栗林智久が、結婚や妊娠を知って逆恨みや嫉妬に駆られたということでしょうか。私には釈然としません。そもそも真波さんが大学を卒業されたのはもう十年以上前ですよね、そこまで執念深く想うものでしょうか。

そもそも真波さんの恋敵であるあなたを標的にする可能性もあります。そして何よりその事実を栗林がどうやって知ったのか、動機には強い曖昧さが残ります」

「一度会ってみていただけませんか。私だってわかっています、今の自分は冷静じゃない。根拠も薄い、でも何かをしないと前を向けません。だから横川さんたちの曇りなき目で見極めてほしい。真波を見つけるためならなんだってしますから」

「ええ、わかりました」

そう言って三好は頷いた。

まるで呪文を唱えるかのように、横川は言葉を発していた。生きていますよね、真波は無事ですよね、必ず見つけ出してくれますよね、約束してくれますよね。真波は自分にとっての希望だと。そう何度も、何度も、何度も訴えている。その返答を聞いて安心したいのだろう。

三好はその実直な言葉に返事を返さず煙に巻くようにした自分を恥じた。真波さんは必ず生きている。そう横川に返したかった。

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次回更新は2月16日(日)、21時の予定です。

 

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