約束のアンブレラ

木嶋は捜査員を鼓舞するように大きな声を張り上げる。それは事件の真相究明と犯人の逮捕。そして何より被害者の無事を信じ、強く意気込むようにも見える。

「応援に向かった捜査員は、二次災害に十分注意しつつ現場検証を実施。所轄は同時刻、藤山で目撃された人物情報や不審な車両の確認、地元住民や登山者への聞き込みを実施だ。

三好、お前は本件に関わりが深い。婚約者の横川淳一に話を聞いて来い、少し時間も経っていることから何か新しい情報があるかもしれない。いいか、三好、闇雲なことは言うなよ」

「はい、承知しています」

三好はそう快活な返答をすると、木嶋は再び息を吸い込んだ。

「もう三十分でこの雨も上がる。年を越える前にこの事件を解決するぞ」

そう言うと捜査員は力強く敬礼し、現場は慌ただしく動き始めた。

華奢な体を揺らすと三好は、手帳を右の胸ポケットに仕舞い込んで鞄を持って車に乗り込む。ほのかにコーヒーの香りの漂う車内で、誰もいない助手席を見つめるとエンジンをかけた。

久原真波の婚約者である横川は帝国不動産の静岡支店に勤めるエリートだ。静岡支店へは静岡中央駅から車で七分程度である。

横川は温厚な男ではあるが、静岡県警に対しては苛立ちを募らせている一面もある。身構えるようにして三好は車を走らせ、ワイパーは雨をかき分ける。天候と年末ということもあり渋滞もなく、行く道は普段よりも空いているように感じられた。