帝国不動産の入居するビルは静岡でも随一の高層ビルだ。高度なセキュリティを有する複合ビルのエントランスに入ると、三好は慣れた手つきで警察手帳を取り出した。

「私は静岡県警の三好というものです。営業部の横川淳一さんいらっしゃいますでしょうか」

「警察の方ですか、少々お待ちください」

受付に立つ女性は少し驚きながらも電話を繋いだ。三好は書いたメモを見返し口を尖らせる。程なくして女性が受話器を置くと、こちらでお待ちくださいと待合室のような場所に誘導された。さすがはクッション性の優れた座り心地の良いソファである。

三好と横川が面と向かって会うのは一ヶ月ぶりのことだった。仄かに香水の香りがしてくると声が聞こえた。

「お待たせしました、横川です」と背中の方から声が聞こえた。被害者の久原真波の婚約者の横川淳一である。

端正な顔立ちにスラリとしたスタイルで良いスーツを着こなしている。髪はいい匂いのスタイリング剤で固められている。この天候でも崩れないほどにガチガチだ。

「年末のお忙しい中、仕事場まで申し訳ありません」

「いえ、三好さん。今日まで当社は営業しておりまして。ご連絡いただいたということは、何か進展があったのですか。真波が見つかったのですか」

少し横川は興奮しているようだ。

「横川さん、まだ詳しいことはお答えできないのです。この雨で現場が混乱していることもあるのですが、必ずお伝えいたします」

「わかりました。それで本日はどのようなご用件でしょうか」